途中まで来たところで、振り返る。

ああ残念、大きな木が邪魔をして、あと少しのところで見えない。


もうちょっとなんだけどな、と身体をあちこちに傾けながら一歩、また一歩とうしろ向きに進むうち。

あの緑色の屋根が、見えたと思った瞬間。


踏み出した足の下に、もう橋はなかった。










「そんなに警備本部が気に入ったの」

「B、大変な目にあった子に、その言いかたはないだろ」

「怒ってるんだよ、俺は」



すみません…と小さくなると、私の足の傷を看ていたB先輩がため息をついた。



「無理すると熱が出たりするかもしれないから、今日はもう、泳ぐのもテニスも、ダメだよ」

「はい」



海の中でパーカーを脱ぎ捨ててしまった私に、誰かがバスタオルをかけてくれる。

髪を拭きながら、迷惑をかけた申し訳なさに小さく息をつくと、右のくるぶしのあたりに激痛が走った。



「痛い!」

「当たり前だよ」



こすれて裂けた傷に、容赦なく消毒液を振りかけられて、そのたび痛みに身がすくんだ。

ガーゼをあててもらってほっとした時には、先輩の怒りももっともだと、改めて自分を恥じた。



「桟橋から泳いできたって、マジで?」

「可愛いのにたくましい子だね」

「あそこ、遊泳区域外だろ。パト誰だ」

「岩部です、この子がブイをくぐろうとした時、あいつが見つけたんですよ」



周囲のそんな声をよそに、包帯を巻きながら、じろりと先輩が私を見る。



「一歩間違えたら本当に危なかったんだよ、わかってるね」

「すみません…」

「どうやったらあそこで落ちるの。ひとりだったんでしょ」



ちょっと考えごとを、と濁したら、またにらまれた。

でも先輩の家を見ようとして足を踏みはずしたなんて、言えるわけない。



「少しゆっくりしたほうがいいんだけど。ここで休んでく? 合宿所に戻る?」

「戻ります、あの、ご迷惑をおかけしました」



立ちあがって頭を下げた私を無視して、先輩はなぜか奥の部屋へ行ってしまった。

本当に怒らせたんだろうかと不安になっていると、白いTシャツを手に戻ってきた先輩が、それを私にほうる。



「冷えてきたでしょ、着てって」

「ありがとうございます」