ふと腕時計を確認したB先輩が、俺もう行く、と言って腰を上げた。



「お前用に、つまみ盛り合わせつくってやったのに」



するめやらから揚げやらを紙皿に山盛りにした先輩がそう言うと、ありがと、とB先輩はそれを受けとって。

片手に紙皿を持ったまま、器用に土手をすべりおりて、走っていってしまった。



「B先輩も、このサークルなんですか」

「違うよ、あいつはたぶん、どこにも入ってないと思う」

「みなさんとは、クラスかゼミが同じとか?」



いや、と誰もが首を振る。

…じゃあ、何つながり?

そう尋ねても、みんな互いの顔を見あわせるだけだ。



「気づいたらいるよな」

「次気づいた時には、いないんだよな」

「まあ、変な奴だよ」



飲んで飲んで、とプラスチックのカップに適当なお酒を注がれる。

大学に入って初めてお酒というものを体験した私は、なんでこんな不思議な味のものをみんな好んで飲むんだろう、と首をかしげつつ。

B先輩に名乗りそびれてしまったことに、気がついた。







朝、軽く部屋の掃除をして、少しだけの洗濯をして、小さなゴミ袋を片手に、アパートの階段を駆けおりる。

ひとつの部屋だけで生活が完結するなんて、ものすごく不思議な感じ。

エントランス前のダストステーションに袋を投げこんで、脇の水道で手を洗うと、駅に走った。


春の風は、命の匂いがする。

あちこちで芽吹く、生命の匂いがする。


私は自由だ。

自由だ。


いつパジャマに着替えても、何時にごはんを食べてもいいんだ。

おやつでお腹をいっぱいにしたって、いいんだ。