もっとお話ししたかったのに。

せっかく会えたのに。

サークルの拠点である大きな青と白のパラソルを目指して、とぼとぼと砂浜を歩く。


先輩、甥っ子がいたんだ。

きっと、優しくて面白い、いいおじちゃんなんだろうな。


男の子を迎えに来た、びっくりするくらい大胆な水着をつけたお母さんは、泣きながら駆け寄る子の頭をばしんと叩き。



『離れるなって言ったでしょ!』



ごめんなさい、と涙をこぼす子に向かって、ヒステリックにわめいた。

それは胸が痛くなる光景で、それまで不安で泣くこともできなかった男の子のようやくの泣き声が、かわいそうでならなかった。

慰めてあげたいと思っても、部外者である私が出しゃばることもできず、たたずんでいると。

お母さん、と柔らかい声がした。



『迷子は、親御さんの責任です』



責めるでもなく、諭すでもないB先輩の言葉は、少しの嫌みもなく響く。

他のライフセーバーたちも、それぞれうなずきながら、その様子を見守っていた。


バイバイ、と男の子の頭をなでてやる先輩を、お母さんはしばらくぽかんと見て。

はっと恥ずかしそうな表情になり、ボードにそそくさと記帳して、子供の手を引いて逃げるようにテントを出ていった。


白く反射する足元の砂が、目の奥を焼く。

たまには幻滅させてください、先輩。

何かひとつくらい、こりゃないなって部分を持っててください。

でないと私。

私。



「どこ行ってたの、みずほちゃん」



ここで聞くことはないと思っていた声に、顔を上げた。



「加治くん…!」

「バイトが途中で消滅しちゃってさ、合流しに来たんだ」



確かになんの準備もなく来たんだろう、上は裸だけど、下は普通のハーフパンツを折っているだけだ。