「あと二泊です」
「そっかー。気をつけないと、みんなにつかまるなあ」
「ここでのボランティアは、今年からですか?」
毎年していたのなら、合宿所が近くにあることも知ってるだろうし、遭遇するのなんて予想の範囲内だろうに。
不思議に思うと、いつものとおり袖をたくし上げた先輩が首を振る。
「この向こうに、地元の人しか来ない遊泳区域があるんだ。いつもはそっちにいるんだけど。今年はここの担当になっちゃって」
「どこかに泊まってらっしゃるんですか?」
なんの気なしに訊くと、先輩がふいに黙った。
並んで砂浜を歩きながら、なぜか少しきょろきょろすると。
「誰にも言わないでくれる?」
しー、と指を口にあてて、ちょっと小声になった。
その仕草が可愛いのと、珍しく秘密めかした物言いに、興味心がくすぐられる。
もちろんです、とうなずくと、いきなり肩に腕が回って、くるんと回れ右させられた。
「あの岩場の、ちょっと右手に、緑の屋根の家があるの、見える?」
見えなかったので背伸びをすると、先輩がそのまま私の肩を抱いて、数歩、海寄りに移動させる。
あっ、見えた。
落ち着いた緑の瓦屋根に白壁の、古めかしくて住みやすそうな、和風のおうちだ。
「見えます」
「あれね、俺の実家」
えっ!
目と鼻の先じゃない!
そういえば、実家は海のほうって言ってた。
“ほう”どころか、海岸線にあったんだ。