「筋肉痛になりそう。ていうか、なりかけてる」

「私も…」



疲労困憊の中、なんとかシャワーだけは浴びてベッドに倒れ込んだ真衣子と私は、二日目の夜も、会話ひとつせずそのまま眠りに落ちた。







合宿三日目の昼間、疲れたと言って部屋に残った真衣子を置いて、私は一応みんなとビーチに出た。

けどやっぱり疲れを感じて、全力で遊ぶ周囲についていけず、水着の上に薄手のパーカーを羽織って、少し散策に出ることにする。


隣県からも人が来るらしいこの海水浴場は、適度なにぎわいを見せている。

なだらかなカーブを描く砂浜の両端は、小高く突き出した岩場に挟まれていて、ちょっとした隠れビーチみたいな場所だった。


素敵。

のどかで、毎日お天気で、みんな楽しそうで。

海も砂浜も綺麗で、振り返れば青青とした山がそびえ、その中腹に合宿施設はある。

サンダルが砂に埋まる歩きづらさを楽しみながら、砂浜と土手の境を歩いていると、3歳くらいの男の子が、ぽつんと立っていた。



「どうしたの」



声をかけると、ふっくらした頬と大きな目が私を見る。

わあ可愛い。

ちっちゃい海水パンツが、また可愛い。



「お母さん見えなくなっちゃった?」



かがんで尋ねると、不安げに人差し指をくわえたその子が、こくんとうなずいた。

あらら、かわいそうに。

でもまさか、子供を置いてビーチを出たりはしないだろうから、呼び出してもらいさえすれば、すぐ見つかるだろう。


少し先にある建物に警備本部があることを知っていたので、そこに行こうと小さな手をとった時、迷子ですか、と声をかけられる。

よかった警備の人だ、と振り向いた時、夢を見てるのかと思った。


首から下げたホイッスルに、黄色いTシャツと赤いハーフパンツで、ライフセーバーだとすぐわかる。

けどその顔は、あまりによく知ったものだった。