「真衣子、どうする?」
夏休みに入ったらすぐに、県内の宿泊施設でサークルの合宿があるという情報が送られてきた。
これも新しい体験だと私は参加することにし、語学の授業で顔を合わせた真衣子に訊いてみる。
すると彼女は、綺麗な顔をなぜかちょっとしかめた。
「槇田先輩が来るかどうか、知ってる?」
「4年生は基本来ないって言ってたよ」
「なら行こうかな」
「何かあったの?」
先生がまだ来ていないので食いつくと、辞書を繰りながら、真衣子が低い声を出す。
「ふられた」
「いつ!」
この間、とテキストに直接和訳を書きこみながら言う。
語学でノートを使わない主義なのは、私と同じ。
わざわざ原文を書き写して、さらに和訳を書きこむなんてナンセンス、という教えの先生が中学校にいたせいだ。
イディオムは音のリズムで覚えなさい、と説いて、書いて覚えろ派の先生と真っ向からぶつかっていた。
「彼女つくる気はないんだってさ」
「仲よかったのに」
「誤解させてごめん、だって」
それは、真衣子がかわいそうだ。
さっぱりした性格の真衣子と快活な槇田先輩は気が合っていて、このままおつきあいするんだとばかり思ってた。
「みずほこそ、加治くん、どうするの」
「帰省先でバイトするから、合宿には来ないって」
「ちゃんとチェックしたんだ」
偉いじゃん、と笑われて、恥ずかしくなった。
別に、彼が来るなら私は行かないとか、そんなことを考えたわけじゃないんだけど。
でも不参加リストに彼の名前を見た時、少し安心したのは確かだった。
数日みんなで過ごす中に加治くんがいたら、私はきっと意識せずにはいられない。
避けるのも無粋だし失礼だと思うけど、なんにも気にしてないふうに振る舞うのも、やっぱり失礼な気がする。
こういうのって、難しい。