人徳って言えよ、と“ビー先輩”が煙草に火をつける。

煙草を吸う人を、こんな間近で見るの、初めて。

しかもサラリーマンとかじゃなくて、同年代の男の人が吸ってるところなんて、見たことない。

興味深く観察していると、サークルの先輩がビー先輩の頭をぐしゃぐしゃとかき回し、私に笑いかけた。



「こいつね、Bっていって、商学の3年。ちょっと変な奴だけど、仲よくしてやってね」

「“ビー”って、アルファベットの“B”ですか?」

「そうだよ、もちろんあだ名だけど。そういや本名なんだっけ、お前」



そこに、あーBじゃん、と他のテーブルの先輩たちも寄ってくる。



「生協で、カートンの安売りするらしいぜ、明日から」

「ほんと、でも俺の吸ってるの、バラ売りですらたまにしか置いてくれないんだけど」



なんでこんなの吸ってんだよ、とひとりがとりあげたB先輩の煙草は、オレンジ色のパッケージで、ちょっと変わった形をしていた。



「じいちゃんがこれだったから。これしか吸ったことない」

「いわゆる安煙草だろ、これ。うまいの?」



俺はうまいと思うけど、と言い訳するような口調が可愛くて笑うと、他の先輩たちがいっせいに私を見る。



「やっぱ東京から来た子って、違うなー」

「垢抜けてるっていうか、ダントツで完成度高いよな」



いや確かに可愛い、と女子の先輩まで真顔でうなずく始末で、居心地が悪い。

東京出身というだけで、ここまで持ちあげられるとは思わなかった。

女子校育ちで、校外に交友関係もなかった私は、実は男の人と話すこと自体、あまり経験がない。

お嬢様校出身、でいじってくれたら、ちょっとは驚きや笑いを提供できるのにな、と考えていると、B先輩と目が合った。



「私も、B先輩ってお呼びしても、いいですか?」

「いいよ、もちろん」



煙草をくわえた顔がにこっと笑う。

あれ、とちょっと違和感があった。

バス停での雰囲気と、何か違う。