とっさに両手を振って断ってしまってから、失礼だったかとあせった。



「ありがとうございます、でもあの、めったに食べられないほうが、レア度が増して、楽しいと思うので…」

「あー、わかるよ」



おんなじ、と微笑まれてしまい、心底申し訳なくなる。

ごめんなさい、先輩、お気遣い嬉しいです。

だけど先輩と仲よしの女の人にとり置いてもらったプリンを、のこのこ受けとりに行く度胸なんて、ないです。


食堂の人かどうかわからないけど、B先輩には最近また、噂になっているお相手がいる。

私も一度見かけたけれど、これまでの例に漏れず、経験豊富そうで大人っぽい、綺麗な人だった。


相手がいる人に、こんなにひっついてたら非常識だし、それ以前に、迷惑だろうか。

たまにそんな不安がよぎるけれど、会えば先輩は、嫌な顔ひとつせずにつきあってくれる。

鷹揚な人、とあったかい気持ちになったところで、はっと気がついた。

先輩、と呼びかけると、ん? と煙草をくわえた顔がこちらを向く。



「先輩、妹さんいらっしゃいます?」

「よくわかったね」

「はい、なんとなく…」



やっぱり…。

力なく答えた私に、先輩が微笑んだ。



「俺も、お兄さんいる子は、なんとなくわかるよ」

「あの、もしかして、たとえばですね」



あのですね、と言いだしづらい中、切り出してみる。

自然と手はもじもじと、シフォンのスカートをいじった。



「私と話すのは、その、妹さんとお話ししているような気分だったり、しますか…?」



先輩は目を丸くして、少しの間、黙る。

私の思いを察しているのか、いないのか、やがて楽しそうに笑うと。



「考えたことなかったよ、そんなの」



木漏れ日の中で、そう言った。