「父も兄も小柄なんです。170弱くらいで」
「やっぱり、お兄さんいるんだ」
「やっぱりって、なんですか?」
だって妹っぽいもん、と先輩が笑う。
だいぶ暑くなった最近でも、薄手のパーカーを羽織って、袖をたくし上げた腕を、立てた片ひざに置いている。
ここは風の通り道らしく、ひんやり涼しい。
先輩は、こういう場所を見つけるのが上手だ。
猫か、と真衣子があきれていた。
冬は暖かく、夏は涼しい場所を目ざとく見つける猫。
確かにB先輩も、同じ才能を持ってると思う。
でもそれを話した時、そんなことないよ、と先輩は笑った。
『気のせいだよ、そんなの』
『でも実際、先輩のいる場所は、気持ちいいです』
『それは単に、気持ちよくなかったら、俺がすぐ場所を移るってだけで。見つけるのがうまいのとは、違うよ』
『そうか、じゃあもしかしたら猫も、右往左往したあげくの場所決めなのかもしれませんね!』
新しい見解だね、とくだらない話で笑う。
話ができた日は、一日浮かれて、なんでもうまくいくような気になって。
会えない日は、前に交わした会話を思い返して、次会えたら何を話そう、と考えて。
B先輩は、私の気分を好きに揺さぶる。
「そうだ、この間のプリンね、明日出るらしいよ」
「えっ! どうしてご存じなんですか」
「食堂で学内バイトしてる子が、教えてくれるんだ」
「………」
ほんと、揺さぶる。
この言いかたは、十中八九、その子って女の人でしょ。
もしかしてプリンを手に入れることができたのも、その人がとっておいてくれるおかげだったりするんじゃ。
次の言葉が見つからなくなって、すっかり夏の素材になったスカートをじっと見つめた。
俺はこの前食べたばかりだから、いいや、とにこにこしながら先輩が新しい煙草に火をつける。
「ひとつ、とっといてもらってあげようか」
「いえっ、大丈夫です」