「俺、高校上がるまで、かなりちっちゃかったんだよ」
「背がですか?」
「背っていうか、身体が」
木陰の芝生に座った先輩が、カチンとライターの音をさせて煙草に火をつけた。
「小さいし細いし、たまに女の子に間違われたくらい」
「本当ですか」
そんなふうには見えない。
いや、言われてみれば面影はあるかもしれない。
顔立ちは決して男性的ではないし、身体つきも、細くはないけど、がっちりしてもいない。
「だから高校では、もうバスケは無理だなと思って。俺くらいでもレギュラーになれそうな部を探したんだ」
「それが、ハンドボールですか」
そ、とおいしそうに煙を吸いながら、にこっと笑う。
入学してからの日々は猛スピードで過ぎていき、初夏から夏に変わろうとする時期になっていた。
学内で先輩を見つけるコツをだいぶつかんだ私は、そのたびに声をかけて、少しでもお話しして。
先輩のまとう穏やかな空気に、心地よく浸っていた。
「でも、そのあといきなり伸びてね。高1の間に、たぶん20センチくらい伸びたんじゃないかな」
「なんだか、メキメキって音がしそうですね」
「実際してたと思うよ。身体中痛くて、肉が全然追いつかなくて。走ったり跳んだりが、急にできなくなっちゃって」
「ええっ」
そんなことあるのって思うけど、聞いたら実際あるらしい。
骨ばっかり成長して、それを動かす筋肉が足りなくなり、一時的に運動能力ががくんと落ちるんだとか。
今の先輩は、たぶん174とか175センチだから、中学校の時は、確かにかなり小さいほうだったってことだ。
「それも2年になったら落ち着いたかな」
「私は、中学の時から、伸びてないです…」
ずーっと155センチ。
しいて言えば小さいほうだけど、別に普通の範囲内だから、あまり身長について悩んだことってない。