またね、だって。

初めて、B先輩が次の約束をしてくれた。


嬉しくて嬉しくて、心も身体も飛べそうなくらい軽い。

芝生の小山を駆けおりると、校門までバスに乗るなんて、考えられなかった。

走れちゃうよ、私。

全然走って行けちゃうよ。


ところどころが石畳になっている舗装路を、かかとの低いパンプスで次々駆け抜ける。

B先輩、B先輩、いつか。

私のことを、ただの後輩以上に、思ってくれますか?

友達とか、仲間とか、そこまではいかなくても、それに準ずるくらいのところには私、入ることができるでしょうか?


筋トレも走りこみもしなくなった中、ちょっと調子に乗りすぎたなと痛む肺をなだめはじめたところで、校門が見えた。

バッグの中で携帯が震え、息を整えながら見れば、兄だ。



「はい?」

『今大丈夫か? 何お前、ぜえぜえ言ってるんだ』

「ううん、なんでもない。どうしたの?」



バッグを振りながら、歩いて校門を抜ける。

兄は少し間を置いて、母さんから連絡あったか? と変に持って回った問いかけをしてきた。



「ないけど、どうして?」

『いや、ないならいいんだ、それじゃ』



勉強なまけるなよ、と冗談めかして言うと、唐突に通話を切る。

どうしたんだろうと思いつつも、その時の私は、他のことで頭がいっぱいだった。


大好きな5月の陽気。

日ごとに伸びる日は、まだ傾くのを我慢して、上のほうから山々を照らしている。


何もかもが始まったばかりで、明日が私を優しく待ってくれてる気がする。

私はここで、きっといろんな体験をする。



少しだけ夏を感じる空気を、胸いっぱいに吸いこんで。


意気揚々と、駅への道を歩いた。