そう告げた声は、我ながら弱気で、しかもすねていた。

ほんとに子供みたい。

これじゃいい子なんて言われたって、仕方ない。


しばらく、まじまじと私の顔を見ていた先輩が、不思議に目を泳がせて、えっと、と言葉を詰まらせた。

てっきりこの間みたいに笑われると思っていた私は、ちょっと驚いてそれを見る。

そんな私の視線に気づいたのか、先輩が気恥ずかしそうに軽く咳払いをした。



「そうだね、ごめん、えーと、ありがと」

「どうかなさいましたか?」



何その、心ここにあらずの返事? とぽかんとすると、先輩はいよいよ困ったような顔で、まったく目を合わせてくれなくなる。

パーカーの袖で口元を隠して、明後日の方向を見ながら、ごめん、とまた言った。



「何がですか?」

「いや…」



うろうろとさまよっていた視線が、ちらっと私を見て、すぐまた足元あたりに落ちる。

そんな自分にあきれたのか、小さく噴き出すと、苦笑いして。





「ちょっと、照れた」





本当に恥ずかしそうに、そう言った。

長めの前髪に比べて、さっぱりしている襟足をかく様子は、普段のつかみどころのない彼とは全然違い。

長いまつげと黒目がちの瞳が、最初に出会った時、犬みたいだなと思ったのを思い出した。


言葉を探したけれど、見つからなかったらしい先輩が、俺行くね、とつぶやいて、私の横をすり抜けようとする。

つい、その袖をつかんで引きとめた。



「あの、先輩、また」



いつもより少し感情の見えやすくなっている瞳が、軽く見開かれたあと、優しく細められる。



「またね」



まだ残っている照れ笑いを隠すように、軽く唇を噛んで。

ぽんと私の腕を叩くと、校舎のほうへ走っていった。