でも私、どこかで少し、ほっとしてもいる。

先輩の想いが、うまくいかなかったことに。

先輩の探してる人が、男の人だったことに。


自分勝手で、私、最低。



「見つかるといいですね、お探しの方…」

「うん、ありがと」



微笑んだ先輩が、ふと遠くを見るように視線を外して。


――時間もないんだ。


そうつぶやいたんだけど、それがどういう意味なのか尋ねる前に、よいしょと彼が腰を上げた。



「俺、次の授業、行くね」

「あっ、あの、これ」



そうだ、と思い出して、善さんへの羊羹をとり出す。



「お世話になったので。あとこちらは、ひと口サイズなので、先輩用に。よかったら」

「えー、俺にまで? ありがと!」



先輩も甘党なのか、予想外に喜んでくれた。

弾ける無邪気な笑顔に、少しほっとする。

渡しとくね、と笑って、いつも提げているトートバッグに、ふたつの包みを入れた先輩が、私ににこりと微笑んだ。



「ほんとに、いい子だね」



うまく、笑えてたら、いいんだけど。

ねえ先輩、男の人って、女の人に“いい人”って言われるのを、あまり喜ばないって、言うでしょう。

今のは、たぶん、まさにそれです。


私の中の、子供な部分は、そう言われて素直に喜んでるんですけれど。

どこか他の部分が、強烈に反発しています。


スカートについた芝をつまみながら、私は、あの、と話しかけた。



「私は、佐瀬みずほといいますが」

「そう何度も言わなくても、俺そこまで記憶力悪くないよ」

「たとえば今後、先輩が誰かに、大学で誰と仲いいのって訊かれた時」



顔を上げると、先輩のぽかんとした瞳とぶつかる。

私はなんだか、駄々をこねているような気になりながらも、言葉はとまらず。



「私を思い浮かべてくださるくらいに、なれたらいいなって、思ってます…」