「人違いだったってことですか」
「そんなところ。またイチからやり直し…」
少しうなだれるように背中を丸めて、芝生にふうっとため息をつく。
もしかして、この間やけに陽気だったのは、ようやく見つかったと思っていたからなのかもしれない。
なんだかかわいそうになって、私は思わず提案した。
「あの、私に何か、お手伝いできることないですか」
「え?」
「情報を集めたりとか…」
ぽかんと私を見ていた先輩が、ふいに優しく笑う。
ありがと、と言いながら、ゆっくり首を振った。
「でもいいよ、きっと難しいから」
「そうですか…」
「気持ちだけもらうね、ありがとう」
にこりと微笑んでくれるけれど、私は自分が役に立たないと改めて知って、落ちこんだ。
何かできたらと思ったのに。
そんな私に、いい子だね、と先輩が声をかけてくれる。
優しくて柔らかい、先輩の声。
「でも、そっか、これの話も、知ってるってことだね」
「噂になってたので…」
すみません、という思いで小さく言うと、先輩が手の甲であざを押さえて、参っちゃうよね、と笑った。
「ほんと、なんでみんなそんな情報、早いんだろうね」
「先輩が有名人だからですよ」
「こんな話、面白くもないのにね?」
いえ、他人からしたら、そりゃあ面白いと思います、と心の中で考える。
「先輩は、全然その、相手の方のことを知らなかったんですか?」
「だってさ、そんなの、言ってもらわなきゃ、わかるわけないじゃん…」
すねた声を出すと、短くなった煙草を缶でもみ消して、新しくまた、一本に火をつけた。
へこむよねー、というつぶやきが、ちくりと刺さる。
そうですよね、あんなに仲よさそうで、先輩も楽しそうだったのに、裏切られてたなんて、傷つきますよね。