噂によると、先輩の彼女が、実は前の彼氏とお別れしていなかったそうで、その彼がB先輩を殴ったらしかった。

浮き名を流しつつも、そういう修羅場には縁がなかったらしいB先輩のそのエピソードは、センセーショナルに構内を駆け巡り。

まだあざも変色しないうちに私の耳にも届いたわけで、本当に有名人だなあ、と感心した。


でもそれと、先輩が誰かを探してるっていうのは、全然別の話なのかと思ってたんだけど。

もしかして、同じ話なんだろうか。

だとすると…。



「あの、探している人って、女の方だったんですか」



煙草をくわえた先輩が、私を見る。



「その、いわゆる、運命の人みたいなことですか?」

「んっ?」



なんの話してる? と目を丸くされて、あれっと私も首をひねった。

その、言ってしまえば二股をかけていた女の人が、ついに見つけたと思っていた運命の相手で。

でも向こうはそうじゃなかったと知ってショックを受けている、とか、そういうことではないの?

勝手な想像なので、言っていいものか迷っていると、先輩がふっと笑う。



「俺の探してるのは、男だよ」

「そうなんですか」



男の人だったんだ。

先輩への気づかいも一瞬忘れて、私は舞いあがった。

運命の人を探してるわけじゃ、なかったんだ。

綺麗な並びの歯で煙草を噛んで、先輩が笑う。



「女の子だね、運命なんて」

「あの、じゃあ、どういうことですか」



再び事情がわからなくなったので、自分の口元を指して尋ねると、先輩は、あーと言葉を探すように宙を見た。



「これとはまた、別の話。いや、まったく別ってわけでも、ないんだけど」



まあ、別の話、とうなずきながら言う。