おおお、と声があがる。
このあたりには、そういう学校はないらしい。
私は、親の一存で初等部からそこに入り、真性のお嬢様とにわかお嬢様と、それらに憧れる庶民、という構図の中で育った。
私の家庭は、父が大手商社の重役をしているくらいで、裕福ではあるけれど、格としてはまあ、中の中だ。
公立校は荒れてるから不可、せっかく私立なら、娘としてどこに出しても恥ずかしくない教育をとか、そういう発想だったんだろう。
「いじめとかあるイメージだねー」
「本物のお嬢様は、優しくてのんきですよ。そういうことするのは、成りあがりか下々の者です」
下々! と笑い声があがる。
やっぱりお嬢様校はそんなイメージなんだなあと、抜け出せた解放感に浸りながら夜桜を見ていたら、ひとりの先輩が誰かに呼びかけた。
「B!」
ビー?
何その名前、とそちらを見て、あっと思った。
入学式の時の人。
ここから見おろせる用水路のほとりを、トートバッグを揺らして走っていたその人は、足をとめずにこちらを見あげる。
来いよ、と気軽にかかる酔っぱらいの声に、ちらっと腕時計を見ると、うなずいて。
身軽に芝生の土手を駆けあがって、私のいるテーブルにやってきた。
余った石材を適当に組みあげたようなテーブルに、どさっとバッグを置いて、座るなりごそごそと上着から煙草をとり出してくわえる。
火をつける直前に、吸っていいかな? と訊いてきた時、ようやく向こうも私に気がついたみたいだった。
「あれ」
「先日は、ありがとうございました」
頭を下げると、くわえていた煙草を口から離して、ちゃんと着いた? と人懐こく笑う。
「はい、すごく早く着いてしまいましたが」
「だよね、周りに新入生、誰もいなかったもんね」
私はどうやら余裕を持ちすぎたらしく、開場まで20分ほど時間をつぶさなければならなかった。
構内をバスで移動、なんて言われたものだから、構えすぎたらしい。
そこに、彼を呼んだ先輩が割りこんできた。
「お前、もう新入生に手ぇつけてんのか」
「入学式の日、迷子になってたんだ」
「なんだよ、役得だなー」
このあたりには、そういう学校はないらしい。
私は、親の一存で初等部からそこに入り、真性のお嬢様とにわかお嬢様と、それらに憧れる庶民、という構図の中で育った。
私の家庭は、父が大手商社の重役をしているくらいで、裕福ではあるけれど、格としてはまあ、中の中だ。
公立校は荒れてるから不可、せっかく私立なら、娘としてどこに出しても恥ずかしくない教育をとか、そういう発想だったんだろう。
「いじめとかあるイメージだねー」
「本物のお嬢様は、優しくてのんきですよ。そういうことするのは、成りあがりか下々の者です」
下々! と笑い声があがる。
やっぱりお嬢様校はそんなイメージなんだなあと、抜け出せた解放感に浸りながら夜桜を見ていたら、ひとりの先輩が誰かに呼びかけた。
「B!」
ビー?
何その名前、とそちらを見て、あっと思った。
入学式の時の人。
ここから見おろせる用水路のほとりを、トートバッグを揺らして走っていたその人は、足をとめずにこちらを見あげる。
来いよ、と気軽にかかる酔っぱらいの声に、ちらっと腕時計を見ると、うなずいて。
身軽に芝生の土手を駆けあがって、私のいるテーブルにやってきた。
余った石材を適当に組みあげたようなテーブルに、どさっとバッグを置いて、座るなりごそごそと上着から煙草をとり出してくわえる。
火をつける直前に、吸っていいかな? と訊いてきた時、ようやく向こうも私に気がついたみたいだった。
「あれ」
「先日は、ありがとうございました」
頭を下げると、くわえていた煙草を口から離して、ちゃんと着いた? と人懐こく笑う。
「はい、すごく早く着いてしまいましたが」
「だよね、周りに新入生、誰もいなかったもんね」
私はどうやら余裕を持ちすぎたらしく、開場まで20分ほど時間をつぶさなければならなかった。
構内をバスで移動、なんて言われたものだから、構えすぎたらしい。
そこに、彼を呼んだ先輩が割りこんできた。
「お前、もう新入生に手ぇつけてんのか」
「入学式の日、迷子になってたんだ」
「なんだよ、役得だなー」