「Bの奴、なんかテンション高かったな」

「いいことでもあったんじゃないの」

「女変えたとか?」



そんな周りの会話から逃げるようにラケットをケースから出した時、あっと気がついた。

そろそろメンテナンスに行かなきゃ。

実は高3で引退した夏から、ガットを張り替えてない。

だましだまし使ってきたけど、もう限界だろうし、グリップテープも新しくしたい。

でもおなじみのショップは都内で、ラケットを持って帰省するなんて、現実的じゃない。

どうしようかなあ、とラケットを眺めていると、どうしたのと声をかけてくれた人がいた。



「張り替えたいの?」

「うん、ショップって近くにある?」

「ちょっと遠いけど、ショッピングセンターの中に入ってるよ。そこでたいていのものはそろうよ」



にこっと笑ったのは、さっき私にボールをあてた、同じ新入生の加治(かじ)くんという男の子だ。

ショッピングセンターは、電車で30分くらい行った、このあたりでは一番大きな駅にある。

でも確か、バイパス沿いにあるとかで、駅の目の前とかじゃなかったはずだ。


そっか、あそこの中に入ってるんだ。

話には聞いていたけれど、まだ行ったことがなかったので、ついでにいろいろ見てこようかなと思いつつ。

休日だとまたとんでもないダイヤ編成だったりして、今度こそ帰ってこられなくなったりしないだろうかという不安もよぎる。

すると加治くんが、爽やかに焼けた顔をほころばせた。



「駅からだと意外とわかりづらいから、一緒に行ってあげるよ。俺も、見たいとこあるし」

「ほんと、ありがとう!」



ありがたい申し出に飛びついてから、気がついた。

ふたりで出かけるってこと?

なりゆきに驚いてぽかんとしていると、加治くんがおかしそうに笑う。



「あとで携帯番号、教えてね」



そう言うと、ボールの入ったカゴを持って、球出し当番のためにさっさとコートに出てしまった。

あれっ、私。

どうしたらいいんだろう、こういう場合。