ひとりの先輩がボールを手にした時、目が合う。

来る、と思い、ぎゅっと身を縮めると、ぐいと肩を引かれて、あったかいところに倒れこんだ。

Tシャツ越しに感じる体温と、覚えのある匂いに混乱する。



「先ぱ…」

「ダメだって、固まっちゃ。ほら」



体勢を立て直すひまもなく、今度はとんと突き放され。

瞬間、私と先輩の間を、ひゅっとボールが通り抜けた。


完全に狙い打ちされている私に、先輩が手を引いて、よける方向を教えてくれる。

夢中で従っていると、私でもなんとか、数発のボールをかわすことができた。



――連休前、泊めてもらった日。

何か聞いた気がして目を覚ますと、B先輩がいなかった。

結局布団の山にうずもれるように寝てしまったらしい私を、起こさずにいてくれたんだろう、肩にはタオルケットがかかっていた。

白く光る障子紙越しに、日差しがさんさんと部屋を照らしている。

そばに目覚まし時計が置いてあって、この音で起きたんだと気がついた。


スヌーズを切って部屋を見回すと、机に何か置いてある。

大きめの付箋に書いた、メモだった。



『鍵はかけなくていいよ。気をつけて帰ってね。B』



自分でも“B”って書いちゃうんだ、と笑った。

時計を見ると、今から一度帰って支度して、一限の授業に十分間に合う時刻だ。

きっとそれを見計らって、目覚ましをかけておいてくれたに違いない。


B先輩の、予想どおりおおらかで、意外に綺麗な字が並ぶメモを持って帰りたかったけれど、返事を書いて置いていくことにした。

ペントレイに手を伸ばした時、その横に重ねてある、束の封筒と便箋に目がとまる。

定期的に手紙を書く人の机だ。

ナチュラルでシンプルな、アイボリーの封筒と便箋。


この時代に、わざわざ封書を送るなんて、どれだけ大事な相手なんだろう。

何かロマンチックな間柄なのか、もしくは年配の方とか、目上の方とか?

先輩の女性関係の噂を考えれば、ロマンチックってことはないか、と思い直しつつ。

そのお相手が、ちょっとうらやましいような気分で、ペンを借りて、付箋の隅にメッセージを書いた。