「きゃあ!」



怖い、怖い、怖い!



「女の子狙うとか、鬼ー」

「セーブしてるよ、うっせーな」



手加減なしに投げられたボールを、鬼呼ばわりした先輩が器用にお腹で受けとめ、反撃とばかりに投げ返した。

テニスの練習をしていたはずが、いつの間にかドッジボール大会になっている。

誰かが、コートの隅に転がっていた、空気の抜けかけた小振りのボールを見つけたせいだ。


こんなの、小学校の体育でちょっとやったことがあるくらいだ。

それも女の子同士のお遊びレベルで、私は初めて見る男の人のボールの勢いに、完全に圧倒されていた。

あれ、あたったら、怪我しない?

ていうか、なんであんなに正確に投げられるの。


悲鳴をあげながら逃げまどい、手加減してもらっているのもあって意外とあたらず、なかなか外野に出られない。

いっそ早くあたって出たいのに。

でもわざとあたるのも怖い。


泣きそうな気分でいると、Bだ、と誰かの声があがった。



「B! ヒマなら入れよ」

「何やってんの?」

「ドッジ」



フェンスの外を走っていたB先輩は、俺はいいよ、と言うかと思いきや、やるやる! と目を輝かせてコートに入ってきた。

走りながらバッグをぽいとベンチにほうり、パーカーを脱ぎ捨てると、負けてるのどっち? と両陣地を指さす。



「あっち」

「じゃ俺、助っ人ね」



Tシャツ姿で、私のいるほうにひょいと入ってくると、にこっと笑いかけてくれた。



「実家でゆっくりできた?」

「はい、おかげさまで」

「来るよ」