「みずほ、お庭から青じそとってきて」

「もうとれるの、まだ5月入ったばかりだよ?」

「香りだけ楽しめればいいのよ」



はいお願い、と小さなカゴを渡されて、くつろいでいた居間から庭に追い出された。

私が高校に上がる頃、家を建て増ししたおかげで、猫の額のようになってしまった庭先には、母が凝っている家庭菜園がある。

隅の青じそは、確かにもう一丁前に葉っぱの形をしたものが出ていて、なるべく大きいものを数枚とった。

今年は暑いせいか、発育がいいみたいだ。

ふわっと感じる、涼しげな夏の香り。


キッチンで昼食の用意をしている母の、鼻歌が聞こえる。

やっぱり帰ってきて、よかった。



大学に入って初めての大型連休、私は最初、帰省するつもりはなかった。

けどこの間の夜、B先輩にそう話したら、帰ったほうがいいよと諭されてしまった。



『実家なんて、いつまであるかわからないんだから。親御さんが元気なうちに、いっぱい帰ってあげたらいいよ』

『先輩は、ご実家は?』

『県内の、反対側のはずれ』

『海のほうですか?』



そう、とギターを弾きながら微笑んでうなずく。



『先輩は、帰りますか?』

『少しね』



そっか、とちょっと残念になった。

連休なんて、なくていいのに。

先輩に会えなくて、しかも家に帰らなきゃいけないなんて、何もいいことない。


そう思ってたんだけど、重い腰を上げて帰ってきて、正解だった。

ひと月顔を見ていないだけなのに、父も母も、なんだか急に人間が丸くなっちゃって、家が広いわ、なんて言って。

老いた、なんて表現は生意気すぎて使いたくないけど、実際受けた印象はそれに近い。


帰ってきてよかった。

私が数日ここで、手のかかる娘ぶりを発揮していれば、以前の両親に戻ってくれるだろうか。

そんな思いと、家を出て自活して、少ししっかりした自分を見てもらいたい気持ちの間で揺れつつ、リビングに戻った。