立てたひざを抱えて、懐かしい音に聞き入っていると、私の特に好きな曲に入った。
17歳になろうとしている女の子が、ひとつ年上のボーイフレンドに甘えるように、でもちょっと背伸びしたいのって感じで歌う歌だ。
口ずさむと、先輩が微笑んでこちらを見た。
英語の歌詞は、意味がわかる前からそらで歌えたのに、今はところどころ忘れてしまっている。
そのうちに、童謡としても有名な、明るくて楽しい曲に移り、私は少し落ち込んだ気分を上げようと、気の向くままに歌った。
それまでこらえていた先輩が、ついに声をあげて笑う。
「歌、ヘタだね」
「悩みなんです」
言いながらも歌う。
私は、ピアノもバイオリンもフルートもできるし、絶対音感も持っているのに、音痴だ。
なんでかわからないけど、思いどおりに歌えたためしがなく、でも人に言われるほど、自分の歌がひどい自覚もない。
なので歌うのは好きだけど、歌うと必ず笑われる。
「でも歌うんだ」
「こうしてたら、先輩が正しい音程で歌いたくなるかと思って」
「意外と策士だね」
楽しそうに笑う先輩を見ていると、私も嬉しくなる。
いい気分で、たぶん相当調子っぱずれなんだろうけど、気にせず歌い、もっと弾いてと先輩をせっついた。
「そろそろ歌いたくなります?」
たまにのぞきこむと、その手には乗らないよー、と優しい声と笑顔が返ってくる。
残念、とふてくされつつも、歌詞がうろ覚えの部分は適当にねつ造して、全部私が歌った。
雨戸をなぶる、雨と風の音。
先輩の指がネックを叩く音、左手をすべらす時の、こすれるような色気のある音。
時折、いてて、と両手の指を見るようになった先輩に、一日一曲って決まりがあるんじゃなかったんですか、と言うと。
どこの決まり? といたずらっぽく眉を上げてみせた。
布団に頭を預けているうちに、だんだんと眠気が訪れる。
先輩、私、佐瀬みずほっていいます。
もしかして、覚える気がそもそもないのかもしれないけど。
よかったら、記憶に残してもらえると、嬉しいです。
目を閉じてそんなことを考えていたら、口からこぼれていたらしく。
知ってるよ。
そんな優しい声と共に、柔らかくて温かいものが肩にそっとかけられたのを、夢の中で感じた。
17歳になろうとしている女の子が、ひとつ年上のボーイフレンドに甘えるように、でもちょっと背伸びしたいのって感じで歌う歌だ。
口ずさむと、先輩が微笑んでこちらを見た。
英語の歌詞は、意味がわかる前からそらで歌えたのに、今はところどころ忘れてしまっている。
そのうちに、童謡としても有名な、明るくて楽しい曲に移り、私は少し落ち込んだ気分を上げようと、気の向くままに歌った。
それまでこらえていた先輩が、ついに声をあげて笑う。
「歌、ヘタだね」
「悩みなんです」
言いながらも歌う。
私は、ピアノもバイオリンもフルートもできるし、絶対音感も持っているのに、音痴だ。
なんでかわからないけど、思いどおりに歌えたためしがなく、でも人に言われるほど、自分の歌がひどい自覚もない。
なので歌うのは好きだけど、歌うと必ず笑われる。
「でも歌うんだ」
「こうしてたら、先輩が正しい音程で歌いたくなるかと思って」
「意外と策士だね」
楽しそうに笑う先輩を見ていると、私も嬉しくなる。
いい気分で、たぶん相当調子っぱずれなんだろうけど、気にせず歌い、もっと弾いてと先輩をせっついた。
「そろそろ歌いたくなります?」
たまにのぞきこむと、その手には乗らないよー、と優しい声と笑顔が返ってくる。
残念、とふてくされつつも、歌詞がうろ覚えの部分は適当にねつ造して、全部私が歌った。
雨戸をなぶる、雨と風の音。
先輩の指がネックを叩く音、左手をすべらす時の、こすれるような色気のある音。
時折、いてて、と両手の指を見るようになった先輩に、一日一曲って決まりがあるんじゃなかったんですか、と言うと。
どこの決まり? といたずらっぽく眉を上げてみせた。
布団に頭を預けているうちに、だんだんと眠気が訪れる。
先輩、私、佐瀬みずほっていいます。
もしかして、覚える気がそもそもないのかもしれないけど。
よかったら、記憶に残してもらえると、嬉しいです。
目を閉じてそんなことを考えていたら、口からこぼれていたらしく。
知ってるよ。
そんな優しい声と共に、柔らかくて温かいものが肩にそっとかけられたのを、夢の中で感じた。