「この間、居酒屋さんで歌った、2年生の」
「ああ、あの子。いい声してたね」
「大河内先輩は、どうしてB先輩がギターを弾けることを、知っていたんでしょうね?」
大河内って? とまた首をかしげる先輩に、私の中で、もしやという疑問が首をもたげた。
試しに、槇田先輩や他の先輩の名前をあげても、やっぱりB先輩は誰ひとりとしてぴんと来ないようで。
思わず姿勢を正して問いかけた。
「先輩、大学で、仲いい人って誰ですか?」
ギターの音がやんだ。
B先輩はきょとんと私を見ると、たいして考えるそぶりもなく、誰だろうなあ、と首をひねる。
「いないんですか」
「でも別に誰とも仲悪くないし、困ってないよ」
ギターの上で腕を組んで、なんで? と訊き返してきた。
「さみしくないですか」
「さみしくないし、さみしくても別にいいよ。遊びに来たわけじゃないし」
少し、ぐさっと来た。
思わずひざに視線を落とすと、あ、と先輩がすぐに気づく。
「別にそういう意味じゃないよ。ただ俺は、ここで友達とかつくる気はないってだけで」
「どうしてですか?」
友達なんて、つくろうとわざわざ思いはしないまでも、つくらないと決めてしまうものでも、ないだろうに。
B先輩は、ちょっと言葉を探すようにギターを見つめ。
また構えると、開放弦をぽろぽろとはじきながら、ぽつんと言った。
「俺は、よくないことをしようとしてるから」
聞き間違えたわけじゃないと確信したのは、直後に奏でられたのが讃美歌だったからだ。
美しいハーモニーを数小節弾くと、先輩はすぐに次の曲へ移った。
まるでやましい心で、慌ただしく短い懺悔を済ませたみたいに。
先輩、そういえば先輩は、いつもひとりですね。
単に忙しいせいかと思っていたけれど、そうじゃなくて、自ら進んでそうあろうとしていますか?
それは、探している人に、関係のあることですか?