何が“水越”だよ。

どこで思いついたの、あんな会社名。

それ以前に、偽名を使われるなんて、どれだけ信用ないんだ、自分は。


念のため、もしもし、とくり返しても、反応はない。

これじゃ、彼女が何を思って再び接触してきたのか、わからない。


煙草に手を伸ばそうとして、サイドテーブルに置かれたカードが目に入った。





“JUDGEMENT”





まさしくだ、と感じた。


自分がしてきたことへの審判が、これからくだされるんだろう。

それはもう、彼女に委ねるしかないことで、あがいたところでどうしようもない。


妙にすっきりとした、あきらめにも似た思いで煙を吐き出した。

電話口の向こうで、彼女の名前が呼ばれるのが聞こえる。

慌てる顔が目に浮かぶようで、笑みが漏れる。


大丈夫だよ、最初からわかってたから。



さあ、どうしようか。

“終わりと再生”の、これはどっちの瞬間に当たるんだろう?


完遂できなかった思い。

彼女にすがられただけで、何もかも見失ってしまったこの手。

みっともない、中途半端なエゴしか持ちあわせない自分。


それを目の当たりにした彼女は、いったいどんな判決をくだすのか。


なんだ、と自分の愚かさにあきれた。

あの日、全部が終わったつもりでいて、実は何ひとつ、終わってなかったんじゃないか。

ずっと続いていたのだ。

ようやく、時が来たのだ。


さあ。





「来月、帰るよ」





賽は投げられた。