「千歳の友達?」
尋ねるとその子は、勢いよくうなずき。
居間で一歩と寝ているはずの千歳を起こしてこようとしたBを、なぜか引きとめた。
「ちぃは元気ですか、それだけ知れたら、いいんで」
懐かしい愛称に、胸が痛くなる。
この制服に身を包んで、千歳が友達と高校に通えたのは、ほんの一瞬だったのだ。
喋れない千歳を元気と言っていいものか迷い、Bは声を出さずにうなずく。
千歳の友達は、ほっとしたように破顔して。
一瞬の後に、Bが仰天する勢いで、激しく泣きだした。
自分が誘った飲み会だったと。
他校の男子生徒が、バイトの千歳たちに目をつけて、シフトの終わったあとに、カラオケの個室で飲もうと誘ってきたんだと。
いつしか二手に分かれ、その後の千歳に何があったかは、その子は直接は知らず。
けれど自分の身に起きたことから、推測するのは簡単だったと。
ごめんなさい、とその子はBに泣いて謝った。
その姿は、あの日の千歳を思い出させた。
「ごめんなさい、そのあと千歳、全然あたしと喋ってくれなくなって、謝れなくて」
「いいよ、きみだけでも無事でよかったって、千歳も安心してると思うよ」
実際は、誰とであろうと喋れなくなっていたのだ。
祖父と自分にすべてを打ち明けて楽になるまでの間、千歳がひとりで震えていたであろう数ヶ月を思い、張り裂けそうになる。
同時に。
なぜ今まで忘れていたんだろうと思った。
訊いていいかな、と静かに問いかけたBを、千歳の友達は、泣きぬれた目で見あげた。
それを安心させるように微笑んで、尋ねた。
「他校の男って、誰?」