父がいなくなった瞬間から、Bの生活は一変した。

とにかく、経済的な保証がどこにもない。

祖父の貯蓄は家を建てるのに消え、つましい年金暮らしだった。


Bが戸籍から外れていたせいで、父の遺族年金は、子供がふたり食べていくには少なく。

ただ生きるだけならなんとかなっただろうけれど、それなりに暮らし、かつその先も見すえると、Bが稼がないわけにいかない。


のんきに反抗期を楽しんでいる場合ではないと、つてを頼ってバイトを探した。

ただでさえ中学生で、さらに年齢よりかなり幼い外見をしていたBに、なかなか働き口はなく。

それまでも関係のあったアパレルの彼女のように、小遣いをくれる女性の間を渡り歩いたりもした。


それでも、元教育関係者であった祖父の対面を重んじて、学校にはちゃんと行き、優等生ですらあった。

自分のことながら、よくやってたなあと今さら感心する。

当時は特に、苦労しているとも思っていなかったけれど。

こうして思い出そうとしても、ほとんど記憶がない。


ということは、それなりに必死で、まったく余裕がなかったんだろうと、十年ほど前の自分を振り返った。



「うーん、そのあとはなんだかごちゃごちゃして、よくわからないわねえ。じゃあ、今のあなたをつくった出来事は…あらやだ」



返したカードを、女主人が爪ではじいた。

二枚のカードがくっついていたらしく、ぱりぱりと乾いた音をたててそれをはがす。

Bの背筋を、鳥肌が走った。



「どうしたの」

「ごめん、ちょっと…」



顔を覆ったBに、心配そうな声がかかる。

煙草の甘い匂いのする指が、Bの髪を優しく梳いた。



「18歳頃ね、何かあったのね」

「こういうのって、途中でやめたらまずい? もう終わりにしてもらえない?」

「それは、夜眠れないのと、関係がある?」