──無理に決まってる!

不安のあまり、千歳のいないところで、そう叫んだ時もあった。


学校は? 結婚は? 父親は?

これからの、千歳の人生は?

そんな中、産み落とされる子供の人生は?


初めて祖父に殴られたのも、その時だ。



『落ち着け、これは“お前の”話でもある』

『俺の…』

『お前も考えるんだ。千歳と、産まれてくる子について』



何を与え、何を教え、何を見せて、どんな人生を送ってほしいと願うのか。

どう愛して、それを伝えて、一緒に生きていくのか。





『お前のことでもあるんだ、万里。家族なんだから』





――家族なんだから。

お互いの汗でじっとりと湿った赤ん坊の、儚いほどの軽さと、頼りなくて愛しい重さを腕に感じながら、思った。



この子のために生きよう。



これ以上なくシンプルに、そう思った。


母は出ていき、父は死んだ。

足の悪い祖父と妹の三人で、日々暮らすのに精一杯で。

そういえば、自分がなんのために存在するのかなんて、考えたことがなかった。


年金だけでは心もとないから、暮らしを楽にするために、ずっと小銭を稼いでいた。

それすらも、ただ必要と思われ、それなりに面白いからやっていただけで、そんなたいした使命感なんて、伴っていなかった。


法的には家族と呼べるかどうかすら怪しい。

そんな自分が、初めて実感できた、役割。



これからの人生を、この子のために使おう。



この子と、千歳のために。