…やめやめ。


思考が変な方向に行きそうだったので、そうひとりごちることで、無理やり頭を切り替えることにした。

朝まで、ぶらぶらと散歩にでも出かけようかと思っていたんだけれど、この雪だとさすがに厳しい。

宿の集会所で、本でも読もうかなと考える。

そうすれば夜明け近くには、少しの眠気が訪れるだろう。






千歳のお腹の子は、すでに“16週目”に入っており、なら産むしかないなと祖父は言った。

あえて近場を避けた、隣の郡の産科の待合室で、何もかもが、Bにはぴんと来なかった。



「しかないって…どういうこと?」

「中絶できるのは、12週までだ。法的にはもう少し先まで許されるが、12週目を超えたら、母体によくない」



一瞬、目の前がぐらりとかしいだ。

中絶という言葉の持つ、冷たくて絶望的な響きに、ショックを受け。

そしてその言葉が、少しの可能性として自分の頭の片隅にあったことに気づき、殴られたような衝撃を受けた。


つわりは、と尋ねた祖父に、終わった、と千歳が答える。

耳を疑った。


それって、あのいきなり吐いたりするやつ?

あれが、千歳にあったって?

もう終わったって?


じいちゃん、気づけよ、だったら。

毎日家にいたんだろ。

千歳と同じ家で、暮らしてたんだろ。


だけど、ろくに帰らなかった自分に、それを言う資格なんてないこともわかっていた。


ちょっと疲れたな、と思っていた時期だった。

学校は好きで、部活も好きで、そこでなら自分は、周囲と同じ、ただの高校生でいられる気がしていたけど。

同じだけ時間を使うなら、金が入ったほうがいいに決まっている。

そんな現実も、無視できなくなっていた頃。


急速に背が伸びたせいで、思うように身体が動かなくなっていた時期でもあり。

朝練に行かなくなり、土日の練習に行かなくなり、午後の授業に出なくなり。

そんなふうに、学校で過ごしていた時間を、徐々にアルバイトに明け渡していき。

でも、こういうのもありかなと思っていた頃だった。