“ごめんなさい”
罫線の上に、震える文字が並ぶ。
子供みたいな柄のノートに、書くたび揺れてチリチリと鳴るチャームのついたペン。
ごめんなさい、と何行にもわたってくり返し書いて、顔を伏せて千歳はひたすら泣いた。
震える呼吸の音が、自分のものだと気づいて愕然とする。
――怖いのか?
怖いよ。
怖いに決まってる。
妊娠って?
子供って?
千歳自身が、まだまったくの子供じゃないか!
「…相手は?」
顔を伏せたまま、千歳が首を振った。
「言いたくないじゃ済まないよ、バイト先の誰か?」
答えない千歳の肩をつかんで揺する。
「黙ってちゃ、わからないだろ…!」
喋れない、という訴えは理解したはずだったのに。
出てきたのは、そんな言葉だけ。
最低だ、と思う余裕すら、その時はなかった。
千歳が、おそらく無意識に、下腹に手をやった。
妹がしばらく学校に行きたがらなかったことを、Bも知っていた。
そのはずだ、と引いていく血の音の中、考える。
千歳のお腹は、間違いなく、ふくらんでいた。
雪だ。
完璧に外気を遮断してくれる二重サッシの向こうに、ちらつきはじめた白いものを、ぼんやりと眺めた。
朝までにやんでくれないと、また発掘がとまっちゃうなあと考えるうちに、自然と足はテラスへ向かう。
遊びにくり出したメンツは、まだ宿に戻ってはいない。
この程度の雪なら、足止めを食って困ることもないだろうし、食ったところで、彼らはラッキーとばかりに、向こうで夜明かししてくるだろう。