眠そうなまぶたに、お詫びと感謝をこめてキスを落とし、柔らかく温かい腕から抜け出した。

ベッドサイドの財布から紙幣を数枚、Bの制服のポケットに移しながら、彼女が首をかしげる。



「Bくんって、いつ寝てるの?」



返事はせずに部屋を出た。

駅まで走って始発に乗る必要がある。


腕時計は早朝を差しているものの、空はまだ真っ暗で、星がきらめいている。

確かに自分はいつ寝るんだろう、と白い息を見あげた。

いつから、眠ることをあきらめたんだったろう。


広い沿岸の道路を、こちらに向かってくるヘッドライトがある。

試しにバッグを振ってみると、青いLEDでドレスアップされた軽のワンボックスがためらいなく停まってくれる。

スモークガラスが下りて、夜なのにサングラスの顔がのぞいた。



「坊主が出歩く時間じゃねーだろ」

「うん、だからおうちに帰るのに、協力して?」



一見強面だけれど、笑うと人のよさそうな印象になる金髪の男性は、Bのおねだりに楽しそうに歯を見せて。

乗りなよ、と助手席のロックを外してくれた。


この日、帰ったBは、祖父と父と妹のために、焼き魚とみそ汁の朝食をつくり。

その食卓が、生きている父親を見た、最後の場となった。








コンプレッサーとドリルの音が、静かで清潔な室内をぴりっと引き締めていた。

何箱もの岩石を運びこんで、協力関係にある博物館の研究員に引き渡す。

専門的な話になると、Bは英語についていけず、残念な思いでチームメイトと研究員の会話を見守った。


もっと勉強しておけばよかった。

そんな後悔をしている自分に驚く。

そもそも、大学で勉強できるなんて贅沢、想像もつかなかった時代だって、あったというのに。