からかいを無視して、バイバイと手を振る。

星が空を満たす、月のない夜。

真っ暗な道を、目指すマンションを探しながら、てくてくと歩いた。



「夜道は危ないよ、ただでさえBくん、可愛いのに」

「平気、こう見えても男の子だから」

「知ってるよ」



いつ来ても綺麗に片づいて明るいこの部屋は、優しい甘い匂いがする。

地元でアパレルの仕事をしている彼女は、ずっと年下であるBを同級生のように「Bくん」と呼び、Bはその響きが好きだった。

Bの冗談に笑いながら、何か飲む? と彼女が訊く。



「シャワー浴びていい? 一度、汗だくになってて」



Bのためにクッションを整えていた彼女は振り返り、軽くキスをすると、続いて首筋に吸いついた。



「ほんとだ、しょっぱい」

「ついでに洗濯させてもらえないかな。明日の夕方、とりに来るから」

「Bくんて、部活に励むタイプには見えないのにね」



あいにく、励むタイプなのだ。

持っていたスポーツバッグから、体操着とユニフォームを出して脱衣所に持っていった。

彼女が洗濯機を空けるためにとり出してくれた下着は、さすがにまだBの目に馴染まない華やかさで、目のやり場に困る。

その一瞬の迷いを見逃さなかった彼女は、可愛いと笑いながらBを抱きしめ、少し見おろすように唇を重ねてきた。


絡みつく舌に、身体が熱くなった。

けれどなぜか、寒いままだった。



寒い。

もうずっと、寒い。





「…もう行くの、今何時?」

「朝メシ当番なんだ」

「待って、お小遣いあげる」

「ありがと」