「寒い」

「ベンチレーションいかれてんのかな」



いい車なのに、と後席の空調をちょっといじって、その少年は、来いよとBを手招く。

素直に身を任せると、上着の中に入れてくれながら、かわいーなお前、と冗談めかして額にキスをくれた。



「ちっちぇーな、B」

「どうしたらみんなみたいに伸びる?」

「さーなあ」



ずるずると、隣の彼のひざを枕に寝そべると、くわえた煙草の灰が革のシートに落ちる。



「どした、これ」

「親父にもらった」



はずみでポケットから転がり出た銀色のナイフを、Bより先に隣の手がとり上げた。



「息子にやるようなもんか?」

「アウトドアグッズだよ」



休日に自室を整理していた父親が、唐突にくれたのだ。

それなりにいいものらしく、重厚感があるのに軽く、ひやりと手に馴染み、無駄のないデザインもBの気に入った。

なんとなくポケットに入れて、そのままになっていた。



「護身用だろ、痴漢にあわないように」



揶揄する声に、脚を伸ばして助手席の頭を蹴ろうとした。

けど長さが足りず、それは軽々とよけられた。



車は適当なところに乗り捨てた。

以前のように、チキンレースもどきで遊んでから海に落とす話も出たけれど、車自体がいい雰囲気に仕上がっていたため、もったいなくてやめた。

キーも積んであるし、十中八九、あの車はちゃんと持ち主の手元に戻るだろう。

Bはここから歩いて行かれる場所にあてがあったので、3人と別れることにした。



「Bが男になりに行くってよ」

「残念ながら、もうだいぶ前から男だよ」

「ペットの間違いだろ」