「えーと、俺はいいです」
「なんで? すっごいいい子、いるよ」
「Bくんみたいな若くて可愛い子がいたら、向こうも喜ぶのにー」
ふたつのタンブラーにコーヒーを詰めて、いいです、と首を振っても、陽気な誘いはやまない。
見かねた教授が、ひげの隙間から白い息を吐きつつ、間に入ってくれた。
「日本で誰か待ってるんでしょ、無理に誘わないの」
「ここアメリカですよ、どうやってばれるってんです」
「Bくんは真面目なんだよ、きみたちと違って」
その代わり私をつれていきなさい、と胸を張る教授に、高血圧で倒れますよ、と誰かが言って、一同が笑った。
別に、誰が日本でBを待っているわけでもないけれど、あえてそこは訂正しないことにした。
「ごめん、お待たせ」
「また誘われてたの? みんな好きだねえ」
ジープに乗りこむと、青い瞳のチームメイトが気の毒そうに笑う。
ろくに整備もされていないらしい車は、懐かしさを覚えるほどの排ガス臭をまき散らしながら、荒っぽく発進した。
「Bも、一度くらい行けばいいのに」
「盛りあがる話題とか持ってないし、英語だってうまくないし、向こうに気をつかわせるだけじゃん」
「そんなの、女の子だってプロなんだから、いいのに」
Bらしいね、と笑われる。
「日本にガールフレンドがいるんでしょ? 二ヶ月もこっち来ちゃって、さみしがってない?」
「いないよ、みんながそう言ってるだけ」
はい、とタンブラーの片方を渡すと、彼はおおいに喜んで、この寒いのになぜか窓を全開にした。
片手でハンドルを操りながら窓に片腕をかけて、気持ちよさそうに口をつける。
湯気が瞬時に風に散って、香ばしい香りがBにも届く。
「じゃあなおさら、一度くらい遊んだらいいのに」
「俺は、いいよ」
「賃金も出るんでしょ、ちょっとくらい無駄遣いしても」
「いいよ」
「…女の子がダメなわけじゃ、ないよね?」