ごめんね。
こんな方法でしか、きみを守れなくてごめん。
こんなことになる前に、引き返せなくてごめん。
謝りたいけど。
もう、会わない。
調査隊の朝は早い。
日の出前に起きて朝食をとり、B&Bの女亭主が厚意で包んでくれる昼食をポケットに、駐車場へ向かう。
まだあたりは真っ暗だ。
最高気温が摂氏3℃にも届かない中、せめて日中は太陽が出ますようにと祈るような気持ちで、泥だらけのSUVを目指した。
Bくん、と教授の声が下から聞こえた。
発掘現場の、むき出しの地層の中腹にいたBは、はいと返事をしつつ、通路と決められている岩石の傾斜を滑り降りる。
「これ、研究センターでクリーニングに回すぶん。届けるついでに見学してきたらいいよ」
「ほんとですか」
知らない人にはただの石ころにしか見えないであろう塊が、一見無造作に投げこまれたバットを受けとった。
現地の大学の研究生である、カナダ出身の青年が、車のキーを揺らしてBに乗るよう呼びかける。
帰ったら車の免許をとりたいなあと考えながら、今行く、と返事をし、ふたりぶんのコーヒーをテントで手早くこしらえた。
「Bくん、これからセンター? 帰ってきたらどうよ、つきあおうぜ」
テントの中でサンプルのラべリングをしていた日本人の助手のひとりが、土埃で汚れた手で、ジョッキを傾ける仕草をする。
研究室に入っているわけでもないBを、彼らはこうして、気にすることもなく可愛がってくれる。
そしてBは、こういう誘いの場合、それがアルコールだけを指すのではないことを経験で知っていた。