何その不穏な物言い。

思わず身体を引きはがして顔を見ると、不思議そうに見返す瞳と出会う。

そういえば先輩は、昔荒れてたとか、なんとか…。



「暴力はダメですよ」

「もちろん、言ってもわかんない奴にしか、使わない」



なんとなく、先輩が企業勤めをするのも、数年かなっていう気がした。



「腹減った」

「食べに出ましょうよ」

「それより、眠い…」



崩れた布団に頭を乗せて、先輩が息をつく。

私は笑って、その腕に頭を乗せた。


とろとろとした仕草で身体に腕を回してくれる。

先輩は指摘しないと、限界まで夜更かしして本を読んでしまう。

ゆうべもそうだったせいだろう、本当に眠そう。



「いいですよ、寝て」



うん、という声は、すでにぼんやりしている。

起きたら夜食をつくってあげよう。

もしかしたら、朝まで起きないかもしれないけど。


よい眠りを、と願いを込めて、その髪をなでた。


悪い夢を見ていそうだったら、起こしてあげます。

幸せな眠りなら、ずっと続くようにと祈ります。


じきに先輩は、寝てしまった。

規則正しい寝息が、愛おしくて。

切なくもあって、身を寄せた。


ふいに先輩が、きゅっと私を抱きしめた。

耳元にキスのような、ふわふわと寝ぼけた感触を落としながら、何事か口のなかでつぶやく。


それはすぐにまた規則正しい寝息に戻って。

優しい腕の中で、私は涙ぐんだ。





“みずほ”





ねえどうか。


私の夢が、先輩を癒してくれますように。

怖い夢を、退けてくれますように。



先輩がひとり、怯える夜を過ごすことがなくなるまで。

いつか自分を、心から信じられる日が来るまで。



ねえ先輩。

私、そばにいます。



ずっと、ずっと。







Fin.