突然、腹減ったなあ、と先輩が言うので、笑った。



「何か食べに行きます?」

「うーん、あとでいいや」

「…先輩がお腹すいたって言ったんですよ」



だって、もうちょっとこうしてたい、と私を抱きしめて、服の裾から手を入れて、背中をなでる。

触れる肌に安心して、子供みたいな言い草にまた笑った。


ふとテーブルの上で、先輩の携帯が震えた。

メールだったらしく、私の額に唇を落としながら、腕を伸ばした先輩が横目で内容を確認して、突然むせるみたいに噴き出す。

思わず悲鳴をあげた。



「やめてください!」

「ごめ、ごめん、でも、千歳が」



千歳が、と咳込んでくり返す先輩は、なかなかないくらい動揺している。

何事かと画面を見て、先輩ほどではないにせよ、私も驚愕に目を見開いた。





【結婚するかも】





末尾で浮かれたハートが動いてる。

続く文面を読む前に、先輩が返信画面を開いて、でも書くことが思い浮かばないらしく、イライラと携帯をにらむ。


聞いていた以上に、先輩のメールはひどい。

【だね】【そう】【うん】とかばっかりで、それも返信があればいいほう。

千歳さんじゃないけれど私も、もういいですと何度も言いかけた。

そんなだから、こういう、いざという時に何を打ったらいいかわからないんだろう。



「お相手は?」

「一歩の学校の先生だって、なんだそれ、教師が教え子の母親に手出したってこと? 許されるの、そんなの?」

「先輩、落ち着いて」

「そもそも俺、千歳さんくださいとか一度も言われてないんだけど。言われてもやらないけど。ていうかそんな男絶対認めない」

「くださいって先輩、お父さんじゃないでしょう」

「俺は千歳の保護者だよ!」

「落ち着いてくださいったら」



最後には携帯をガンと投げ捨て、たたんで積んである布団に身を投げだした。

ふて寝するように布団に顔を押しあてて、動かなくなる。