「都市の遺跡とか見てるとね」

「はい」

「街が滅びた瞬間、ほんとに一緒にいたい人といられた人って、どのくらいいるのかなとか、思うんだ」



…昼間の展覧会を思い出してるんだろうか。

ポンペイ遺跡のパネルの前で、動かなくなった先輩。



「もしいたら、それこそ奇跡なんじゃないのって。それ考えるたびに、やっぱり離れちゃダメだなって思う」

「先輩…」

「俺、これからも心配かけるよ。まだ全然整理できてないし、フラッシュバックっていうのかな、突然なんか来ることもある」



先輩、と声が詰まった。

心配とか、いいですそんなの、気にしないで。

自分のことだけ、考えてて。

ごつんと、額と額がぶつかる。



「でも一緒にいたいんだ」

「先輩…」

「俺たぶん、みずほがすごく大事なんだ」

「たぶん、ですか」



長い睫毛が動いて、黒い瞳がのぞいた。

その瞳が間近で、悲しげにひそめられて。

ごめんね、と困ったように笑う。





「まだそういうの、ちょっと怖い」





力の限り抱きしめた。

薄いTシャツ越しに、先輩の綺麗な身体を感じながら、抱きしめた。


バカな先輩。

ごめんなんて二度と言わないで。

そんなふうに全部、悪いのは自分だと思いこまないで。

先輩には、くたびれたら立ちどまって、また元気が出るまで休む権利が、あるんです。