「俺、そんなに満足してないように見えるかな」

「…安心してないように、感じます」

「夜の話? あれは昔からたまにあるんだよ、ごめんね、心配させて」

「善さんのおうちでも、ありました…?」



そういえばあの頃は減ってたなあ、と先輩が首をひねる。

やっぱりここじゃ、完全に休めてないってことじゃない。

私、なんの役にも立ってないってことじゃない。



「なんでそんなふうに考えるの」

「…なんの夢を見てますか」

「わかんない、起きると忘れちゃうから」

「夜だけですよね、いつ頃からですか?」



のぞきこむと、先輩が言葉に詰まって、曖昧に微笑んだ。

言われなくてもわかった。

千歳さんのことがあってからだ。



「それ以前から俺、夜寝るのあんまり得意じゃないんだ。だからそもそも寝ないし、夢自体、そんな見なかったんだけど」

「…? よく寝る人って思ってました…」

「でしょ」



首をかしげる私に、にこりと先輩が笑いかける。

のぞきこむように、彼も少し首をかしげて。



「みずほの効能ってこと」



私の髪に指を差しいれて、優しく頭を揺らす。

聞きわけのない子供にするみたいな、仕草。


目の奥が熱くなって、また涙があふれてきた。

先輩が指で拭ってくれるけど、そんなんじゃ全然追いつかない。


ねえ先輩、ほんとですか。

私、何か役に立ててますか。



「でも、そのせいで嫌な夢を見てしまうんなら…」

「そのうち見なくなる気がするから平気」

「なんの根拠が?」

「目が覚めた時、みずほが心配そうにしてくれてるのも、けっこう気に入ってるし」