「じゃあ、何が不安なの」

「別に、何も」

「俺に隠し事できるようになるのは、もう少し先かもね」



ひざに置いていた手を、握ってくれる。

またそうやって、上から見おろして、大人ぶって。

私なんて小さい存在なんだって、思い知らせて。



「…先輩が、また、どこかに行きたがってる気がして」

「部屋なら移りたいよ、確かに」

「そんなことして、何が変わりますか」



私の鋭い声に、先輩が目を丸くした。



「眠れるようになりますか、つらいことを思い出さなくなりますか、ここより休まりますか?」

「えっ?」

「私じゃ、善さんみたいなものはあげられませんか? 一緒にいるだけじゃ、ダメですか」

「善さん? なんの話?」

「“ここじゃないどこか”なんて探したって、そこが正解かどうか、どうしてわかるの。一生探し続ける気ですか」



正解は、自分で決めるんです。

ここが正解かもって、少しでもそう思えない人には、正解は永遠にやってこないんです。

ないものばっかり探して、今あるものを大事にできない人に、正解なんて来ないんです。

自分を大事にしない人は、どこに行ったって、何も見つけられないんです!


悲鳴みたいな自分の声を聞きながら、何様だとあきれた。

でも気持ちが昂ぶってどうにもならず、先輩にしがみついて声をあげて泣いた。


先輩、何を探してますか。

何を求めてますか。

どうして今が不満ですか。

次なら大丈夫とも、思ってないくせに。



「…部屋探しから、ずいぶん大きな話になったね」



しばらく私の背中をなでていた先輩が、感心したように言った。

しゃくりあげるのがとまらない私は、先輩の肩に顔をうずめてそれを聞く。