あ、と先輩が空を見あげた。

昼過ぎから怪しかった空から、ぽつりと水滴が落ちる。



「先輩…」

「ん?」

「…帰りませんか」



不安に駆られて、子供みたいなことを言いだした私を。

しばらくきょとんと見て、やがて先輩は微笑んだ。





狭い部屋。

あまり物のない先輩ですら、手狭に感じるんだろう。

あのゆったりした部屋と比べたら、そんなの当然だ。


でもじゃあ、広ければいいんだろうか。

先輩は、何を探してるんだろう。


雨が濡らすガラス越しに、ベランダで煙草を吸う先輩を見つめた。

手すりに寄りかかって、暮れかけた灰色の空を眺めてる。

私の視線に気づいたのか、彼がこちらを見て。

苦笑すると、部屋に入ってきた。


一度吸わないと決めたら、煙草のにおいを部屋に持ちこむのが嫌らしく、律儀に流しで手を洗って戻ってくる。

ねえ、と私の隣に座って、微笑んだ。



「俺が心配?」



答えられなかった。

片ひざにほおづえをついて、先輩がさみしげに笑う。



「俺、また何かしそう?」

「そんな…」

「見張られてるみたいだよ」



ぎくりと心臓が跳ねあがった。

違います、となんとか首を振った。


違います、そんなつもり、全然。

全然…。