「ちょっと、このまま乗ってていい?」



帰り道、次の駅が先輩の家、というところでそんなことを言われた。

特に反対する理由もないのでうなずく。



「どこへ行くんですか?」

「それを考えてるとこ」

「………?」



最寄駅を通り越す。

やけに熱心に窓の外を眺める先輩を不思議に思いながら、数駅ぶんを電車に揺られた。

下りよ、と突然手を引かれて下りたのは、昔懐かしい雰囲気の商店街と、近代的なアーケード街が駅の両側にある駅だった。



「新旧商店街って感じでしょうか」

「仲悪かったらどうしようって思ったけど、住み分けできてるね」



確かにそうだ。

日用品や食料品は旧商店街に、レンタルDVDやファーストフード店は新商店街にあって、これなら人も偏らない。

駅の目の前にある、いかにも古くから営業していそうな不動産屋さんの前で、先輩が立ちどまった。

いくつか貼り出してある物件情報をじっくり眺めては、ふーんと声を出す。



「なくはないなあ」

「本当に引越すんですか」

「ま、いつかはね」



今度は大手チェーンの不動産屋さんの前で、同じことをする。

私はなぜか、とてもあせった。



「でも先輩、住めば都って、今のところも、もう少し住んでみたら居心地よくなるかも」

「なんでみずほがそんな必死なの?」

「だって…」



不思議そうに私を見る先輩に、何も言えなかった。

だって。

先輩が、存在しないものを探している気がして。

たとえばこれをきっかけに、次々渡り歩いて、根無し草みたいになってしまう気がして。

そして先輩も、そんな生活を、もしかして望んでいるんじゃないかって気がして。