なぜか先輩はちょっと嬉しげに、へーと笑った。

言われ慣れていないことを言われて、楽しいんだろう。



「でも喋ると残念って。俺、なまってる?」

「そうですね、地方の出だなっていうのは、感じます」



ふーんとつぶやきながら、次々にお皿を空にしていく。

残念なんて言われちゃったのか。

先輩の間延びしたような喋りかたと、あまり上下しないイントネーションは、のんびりした愛嬌があって、素敵なのに。

でも、そこが話題になる時点で、周囲と楽しくやってるんだろうなあと想像がつく。


私も先輩も、入社一年目なので、会社のルールで営業部署に配属されている。

先輩が営業なんてと最初は思ったけれど、よく考えたら当たりが柔らかくて気が回るって、営業としては最高だ。

お互いいずれは編集を希望しているので、営業職はこの一年だけだと思うけど。

どんな仕事ぶりなのかなあ、とワイシャツ姿の先輩を見ながら思った。





翌日の土曜日は、先輩と都内の美術館に行った。

古代ローマ帝国の遺跡や絵画を展示した企画展に、私の会社が協力したため、招待券をもらうことができたのだ。


先輩はこういうものが好きで、気に入った展示物があると、その前から引きはがすのに苦労する。

今日も古代都市の遺跡のパネルの前で動かなくなってしまったので、私は順路をそのまま進んだ。



「佐瀬さん?」

「あっ、お疲れ様です」



同じ部署の先輩が、たぶん取引先のアテンドだろう、仕事中の雰囲気で、声をかけてくれた。



「プライベート?」

「そうです」

「友達と?」



いえ、と首を振ると、当然ながら彼氏と? と訊かれてしまい、ええと…と言葉に詰まった。

大学の先輩です、と言いきるのもなんなので、首をかしげながらうなずくという微妙な所作でごまかす。



「彼、何してる人?」

「同じ業界なんです、出版社で」