B先輩はやっぱり、途中でふっと消えた。
お手洗いに行くような気軽さで腰を上げ、けどさりげなくバッグを持っていたのに、私は気がついた。
「先輩」
駅の手前で追いつくと、くわえ煙草の先輩が驚いたように振り返る。
「走れるの。お酒強いんだね」
「あんまり飲んでませんから」
「おごってもらえるうちに、たっぷり飲んどけばいいのに。一度限界知っておくのも、大事だよ」
「先輩も、そんなに飲んでないでしょう?」
まあね、と白い煙が吐き出された。
少しの距離を、並んで歩く。
「…帰ったら、何をしますか?」
「寝るよ、明日早いから」
「講義ですか?」
「バイト」
この間は夜してたのに、今度は朝か。
どうしてそんなに忙しくしてるんだろう。
「なんのバイトですか」
「いろいろだね」
「…探してる方は、見つかりそうですか?」
くわえた煙草の先が、一瞬赤々と光って。
ふうっとため息みたいに、先輩は煙を吐いた。
「わかんない、まだ探し中」
「そうですか…」
改札前の四角いスタンドの灰皿に、ぽいと煙草を投げ捨てると、先輩は横の自動販売機で、何かを買った。
「はい」
「え」
「この間のお返し」
いきなり渡されたのは、缶コーヒーだった。
一緒に「渡しといてくれる?」と数枚の千円札と五千円札を受けとる。
ひんやりとした缶とお札を握りしめているうちに、先輩は改札を通り抜け、向かいのホームに続く階段へ向かう。
「また、一緒に飲んでください」
その背中に呼びかけると、両手をパーカーのポケットに入れた先輩は、振り向いて。
「おやすみ」
そう、優しく微笑んだ。