「ほんとにしてません」
「いいよ別に、してたって」
「してませんったら」
必死にすがる私を見て、先輩が灰皿に煙草を落とす。
ふーん、という冷たい声に、信じてくれてないんだとあせっていると、ふいに腕が肩に回されて。
引き寄せられたと思ったら、唇が重なってきた。
煙草くさい唇は、一度すぐに離れて。
息つく暇もなく、また重なってくる。
先輩、わかってますか。
これ、再会して初めての、ちゃんとしたキスなのに。
お互い、引越し作業のあとでなんとなく埃っぽくて、片手にお箸なんて持ってる。
私の不本意さが伝わったのか、先輩が笑った。
「夜まで言わないでおこうと思ってたんだけど」
「なんですか」
「ずっと会いたかったよ」
ずるい。
いきなりそんなの、ずるい。
「…でもやっぱり会わなきゃよかったって、思ってたでしょう、善さんのおうちで?」
「思ってた」
鋭いね、と苦笑する。
額をくっつけて、優しく髪をかき回してくれる。
「でももうそういうの、やめるんだ」
「どんなふうに?」
「うーん…会いたいと思ったら会うし、いろんなこと、したいと思ったらするし」
突然、熱烈な一瞬のキスをくれる。
のぞきこむ、優しくて真っ黒な瞳。
「一緒にいたいと思ったら、離さない」