「意外と近いですね」
「ほんとだね」
4月を迎えるにあたって、先輩も私も引越しがあった。
先輩も、来月から正式に社会人だ。
「フリーのライターさんなのかと」
「あれはバイトみたいなもの。いずれはそれで食ってけたらなって思うけど、まずは奨学金も返さないとだしね」
千歳さんの家に預かってもらっていたオーディオセットを、気に入る位置に動かしながら、先輩が言う。
新しい部屋は、偶然にも私の新居と、30分もかからず行き来できるところにあった。
そして先輩の就職先は、あのムック本を出していた、学術系の出版社だった。
まさかの同業者だ。
手をはたきながら、先輩がうなずく。
「こんなもんかなあ、何か食いに行く?」
「そうですね、探索がてら」
驚くほど荷物の少ない先輩は、宅配便で引越しを済ませてしまった。
実家の荷物が合流すると、部屋の雰囲気は、善さんの二階のあの部屋と、実家の部屋の間くらいにおさまった。
恐竜たちを、一歩くんに残してきたからだ。
「そっちはどう、落ち着いた?」
「はい、土地勘があると、やっぱり楽です」
「そっか、向こうに行くこととか、もうない?」
「夏には真衣子の家に泊めてもらって、加治くんたちと遊ぶ予定ですよ」
そう、と微笑んだ先輩が、荷物をひとつあけて綺麗なTシャツをとり出すと、それに着替えた。
裸の身体にちょっとどぎまぎする私を笑って、頬に軽いキスをくれる。
先輩が戻ってきて数日。
私たちは、東京で再会した。