「俺、そういうのって、時間がたてば減るのかなって、ちょっと期待してたんだけど」
「減らないですよ、だって許す気のある人からは逃げて、自分自身は許す気が全然ないんだもの」
あれっ、と先輩が目を見開く。
「それって当然のこと? ていうか俺やっぱり逃げてた?」
「楽なほうを選んでたという意味ではないですが、人の声に耳を貸さない勝手さは、あったと思います」
「だって貸したら、お前は悪くないよって言ってくれちゃうじゃん」
「それが勝手なんです、聞きたくないから聞かない、なんて。聞いてほしかったのに」
…全否定だね、とすねた声。
わざとフォローせずにいると、立てたひざにほおづえをついて、考えたんだよね、とつぶやいた。
「千歳がこれだけ長いこと喋れなかったのって、もしかして俺のせいかなって」
そんなことないですよ、と言ってあげたかったけど、できなかった。
たぶんそれは、ある意味真実だから。
そしてきっと、千歳さんと先輩の、お互いに言えること。
先輩の頑なさが、どこかで千歳さんを縛っていたように。
千歳さんが、幸せそうにしながらも喋れないことが、先輩をずっと、過去から引き離せずにいた。
自分の一部を殺して、でも笑っていることが相手のためだと、この兄妹はきっと、どちらも誤解してた。
相手を思うあまり、そんな迷路に入りこんで、長い間その中で必死に出口を探してた。
先輩、やっぱりね。
時間が解決することも、あったと思います。
一歩くんは大きくなって。
過去は、少しずつ遠い記憶になってく。
だけどね先輩。
先輩が今、ずっと好きだった道にようやく入ったこととか、こうして千歳さんに会いに戻ってきたこととか。
そんな一歩が、彼女に声をとり戻させたんだと、思います。
そしてあの声が。
先輩に、ほんの少しの答えを、くれたんですよね。