あの気まずい空気を思い出しているのか、先輩が笑いながら掛け布団を軽く上げて、おいで、と手を引いてくれる。

潜りこむと、すぐに抱きしめてくれて、その懐かしい温かさに胸がいっぱいになった。

でも私が腕を回して抱きついた瞬間、つらそうに呻く。

慌てて手を向こうの腰骨のあたりに移動させると、やっぱり肉が落ちているのがよくわかった。



「変なとこさわらないでくれる?」

「そんな場所、さわってません」

「全然元気じゃん、帰れたんじゃないの、これなら」

「先輩の面倒を見なきゃならなくなって」



くっついた身体から、笑い声が聞こえる。



「お返事は?」

「夜だから言うけど」

「…なんですか」

「約束とか、どうやってするのか、覚えてない」



見あげると、さみしげに微笑む。



「…ただ、うんって言ってくだされば、いいんですよ」

「言えばいいの?」



…よくない。

だって、守ってくれなかったら、意味がない。

先輩が、ゆっくり私を抱きしめる。

ごめんね、と耳元でささやく。


目を閉じると、涙がこぼれた。


約束なんて、したところで、意味がないんですね。

守る気がもう、ないんですね。


もしかしたら、罪悪感からキスをくれるんじゃないかと、ほんの少し期待して見あげてみたのに。

そんなのお見通しって顔で微笑んだ先輩は、よしよしと抱きしめてくれただけで。

手をつないだまま、眠ってしまった。


痛いくらい感じた。

この人は、きっとまた、どこかへ行ってしまう。

離しちゃダメだ。

絶対にこの手を離しちゃダメだ。


永遠に夜が明けなければいいのに、と思った。