「…勝手な人」
嗅ぎ慣れない匂いの肩に、頬をこすりつけた。
ついこぼれた文句に、先輩がうろたえたのがわかる。
長いこと彼は、迷うように私の背中をなでて。
やがて、ごめん、と遠慮がちにつぶやいた。
かっとなって、その身体を突き飛ばした。
「謝らなくていいです」
戸惑った顔が、私を見おろす。
何もわかってない、この人。
何もわかってない。
自分だって、傷だらけのくせに。
「謝らなくていいから、約束してください」
先輩が、ますます困ったように視線を揺らす。
約束してください、先輩、謝らなくていいから。
焼けて色の抜けたその髪に、両手を入れた。
指を絡めて、目をそらせまいとのぞきこむ。
ねえ先輩、お願いだから。
「約束してください」
抑えていた涙が、こぼれた。
「もう勝手に、ひとりにならないで…」
黒い瞳が、揺れて。
懐かしい腕が、また私を抱いた。
濡れた頬に、温かい感触が触れる。
先輩の唇。
それは両方の頬とこめかみのあたりに、何度か押しあてられて。
耳元に、震えるささやきを残した。
「ありがと…」