「…気づいてたんなら、声かけてよ」
煙草をケースに戻しながら、照れくさそうに言う。
記憶より少し日に焼けて、きっと年月のぶん、わずかに痩せた身体と顔。
でも変わってない。
変わってない、あの時のまま。
つい一歩踏み出した瞬間、先輩がぴたりと足をとめた。
まるで、これ以上近づいたらぱっと逃げてしまいそうな。
少しの距離を置いて、そんな緊張を感じる。
「…あんまり変わってないね」
変えなかったんです。
髪の長さも、服の雰囲気も。
だって変えてしまったら、見つけてもらえないかと思って。
「元気だった?」
なんですか、その勝手な質問。
元気でしたよ、あなたがいればもっと元気だったでしょうけど。
答えない私に間が持たなくなったのか、先輩がちらっと周囲を見回して、両手をポケットに入れる。
私の視線に気がついたんだろう、すぐに右手を出してひらひらと振ってみせると、気まずそうに微笑んだ。
「何も入れてないよ」
「…どうしたら、自分を許しますか」
黒い瞳が見開かれた。
「私がなんて言えば、自分を許してくれますか?」
「…あのLPを、買ったの?」
まさかという声を先輩が出した。
突然飛んだ話題についていきかねて、でもすぐ納得した。
先輩は、私があのLPを買わない限り手紙に気づかないと思って、入れたんだ。
そりゃそうだ、実際は奇跡のような偶然が重なっただけで、普通に考えたら、あの手紙は私の手元には、来なかった。
「買えませんでしたけど、手紙は持ってます」
ぽかんとしていた先輩が、うわ、と目を泳がせる。
腹が立った。
こんな、どうでもいい話をしたいんじゃない。