「あっ! すみません!」
「いや、そっちこそ大丈夫?」
盛大に飛び散ったビールに、頭が真っ白になった。
テーブルからこぼれたぶんが、先輩のデニムにしたたるのをおしぼりで拭こうとすると、何も気にしていないような声が降ってくる。
あせりのあまり顔が真っ赤になるのを意識しながら、どう脳の回路がつながったんだか、はっと思いついた。
まさか。
「いいよ、もう。ありがと」
「…B先輩の、Bって」
私の手をやんわり押し戻す先輩を、呆然と見あげる。
ん? という不思議そうな視線とぶつかった。
「ビッチ専の、Bですか…?」
B先輩の、こんなにぽかんとした顔、初めて見る。
一瞬ののち、爆笑が沸き起こった。
お座敷の全員が笑い転げるのに、えっと動揺して見回すと、B先輩があきれたようにみんなに言う。
「こんな子に変な言葉、教えるなよ」
「しょうがねーだろ、お前の実態なんだから」
「え、俺のことなの、あれ?」
また笑いが起こった。
「なんで俺が?」
「そりゃ女の趣味が、最悪だから」
「俺、別に趣味なんてないよ」
きょとんとする先輩の声も無視され、酔っ払った集団はひたすら笑い転げる。
先輩は何か訴えるのをあきらめたらしく、うなだれる私をのぞきこんできた。
「女の子が、そんな言葉使っちゃ、ダメだよ」
「…はい」
穴があったら入りたい。
ないなら掘ってでも入りたい。