会えてしまったら、どうしよう。

今朝目を覚ましてから、そのことばかり考えた。

会えないなら、いい。

また待つだけだから。


でも、会えてしまったら、どうしよう。

何を言おう。

三年半もあったのに、私、何も考えてない。


残念ながら、初めての電話越しの先輩の声から、感情を読みとることはできなかった。

どうして帰る時を教えてくれましたか。

私はそのことを、どう受けとめたらいいですか。



その時。

音がしたわけでも、気配を感じたわけでもないのに。

なぜかふと、校門の外を振り返ってみる気になった。



ベンチから腰を上げ、なんの気なしに門の外をのぞいて。

いっそ隠れたいと思った。



よく晴れた空の下。

ゆるやかな坂になっている道を、のんびりと歩いてくる姿。

懐かしいのか、あちこちを見回しながら、気持ちよさそうに春の風を受けている。


やっぱりカーキの、薄手のモッズコートを羽織って。

片手を入れていたポケットから、煙草をとり出した。


変わってない、オレンジのパッケージを振って、一本をくわえる。

風から守るように両手で囲って、火をつけようとした時。



目が合った。








――蝉噪。



『どんな感じですか?』

『うーん…頭がちょっとぼーっとするような、はっきりするような、そんな感じ』

『どんな時に吸いたくなりますか?』

『基本、いつでも吸いたいよ』

『しいてあげるなら』

『気分を変えたい時とか、ちょっと疲れたなって時とか、飲んだり食べたりしたあとも、吸いたくなる』



衣擦れ。

そば殻の枕の音。